・アイドルマスターシンデレラガールズ:第7話『I wonder where I find the light I shine...』

00)序
アイドルマスターシンデレラガールズ、第一部完ッッッ!!!! というわけで、コンテ高雄、演出原田、脚本高橋の一話メンバーが再登板して、今までのお話の積み重ねをフルに使う、序章ラストエピソード。
高雄監督のレイアウトセンスが冴え渡り、空間の取り方、明暗の使い方、モチーフの写し方など、言葉を使わない意味伝達がギュと圧縮された、素晴らしい映像でした。
脚本も今までの蓄積を見事に使い、低いところからの急激な上げを書ききり、シンデレラたち(と魔法使い)がアイドルの階段に足をかけるまでを、見事に描写した回だったと思います。
各回ごとのお話の受け渡しや、演出のリフレインと変奏に特に注目しつつ、頭から順繰りに見て行きたいと思います。


01)話全体を覆うトーン
不安、不快、不吉。
高雄監督のクッキリしたライティングは、いわゆる『暗い』イメージが付きまとう状況では、画面が徹底的に暗くされます。
本田未央の『アイドル辞める!』宣言を引き継いで始まる今回のエピソードも、出だしはこれでもかというほどに真っ暗です。
おまけにガラスが砕ける音まで響いて、こっちの心臓に悪い。
この薄暗い状況はAパート終わりまで続き、プロデュサーが島村さんの家にたどり着くことで終わります。
それまでは徹底して暗く、すっきりしない色彩と明暗で世界が作られている。

本田さんだけではなく凛ちゃんにも的確な言葉をかけられず、過去の失敗から臆病になり続けるプロデューサー。
彼に魔法をかけてもらうことを望みつつ、希望の裏返しである失望から、距離を取っていく渋谷凛。
そして、膨れ上がった夢想に押しつぶされ、世界認識を切断してしまっている本田未央。

彼らにとっての世界は、文字通りに灰色なわけです。
この状況が動き出すのがBパート頭、島村家への見舞いからであり、此処でプロデューサーが前を向き、プロデューサーが本田未央と向かい合うことで彼女も立ち上がり、二人で一話以前の『アツくなれるものが何もない』渋谷凛を、アイドルという夢を見つけた少女に戻す。
世界がドミノのように変化していく起点を徹底的に劇的に見せるべく、下がるシーンは今回、徹底的に灰色です。

プロデューサーが前向きになれるきっかけが、彼自身が見出したアイドル、島村卯月の武器『笑顔』であるというのは、一話で印象的だったやり取りを的確に回収しており、趣深いところだと思います。
仲間もいなくなって、先も見えないままレッスン漬けの島村さんにかけた、プロデューサーが見た真実は、巡り巡ってピンチの彼自身を救うわけです。
こういう真心の循環ができている物語は、見ていて安心するし、期待もするし、それに答えてもらった時は嬉しいものです。

明暗だけでなく、視線による心理暗示も徹底してて、登場人物の視線が上に向き始めるのもBパート以降であり、登場人物がそれこそ『前を向く』まで、視線は常時下向き固定です。
お互いの目を見る描写がBパートまでほぼ無いのも、正面から相手に向い合い、本音を言って状況を解決する糸口をつかめないAパートにマッチした演出だと言えます。
他にも窓枠や木、椅子を活用して心理的距離感を強調したり、そこを乗り越えて『前に出る』アクションをカメラに移したり、『画面に映るものを活用して、キャラクターの心の距離や動きを見せる』演出術は、一話と同じように冴え渡っていました。

 

02)レッスンシーンと前川みく
続くレッスンシーンで、前川は「そんなの、プロ失格にゃ。みく達より先にデビューしたのに……」と言いかけます。
前川みくは、このセリフを言わなければいけない。
そうすることで、前川みくに感情移入している視聴者の気持ちを代弁し、問題を顕在化させてくれるからです。
前川の言うことは同時に、(少なくとも)僕の思っていることなわけです。

前川みくが持っている、アイドルへの強い憧れ、シンデレラプロジェクトに賭ける強い意志、選ばれないことへの焦りと不安、キャラ作りに隠した真っ当な感性と傷付きやすさ。
これは2話での登場時から見え隠れし、主役回である5話で完全に焼き付けられた、『凡人代表』前川みくの重要な資質です。
この中途半端さがあるから、選ばれて愛された人たちのお話であるシンデレラガールズにおいて、不自然さを指摘する役が出来る。

前川みくは『主役の影に隠れている、しかし大切な傷を発見する役』を、今回(も)担い続けています。
前川を代表者に使うことで、話の真ん中から外れた所に置かれているキャラクターの気持ちを一つにまとめて表明し、対応出来る体制が出来ている。
それは、『猫耳つけなくてもデビューできる』人たち、既に選ばれた人たちにはこなすことが難しい役どころであり、お話を多角的に描く上でも、当然発生する不平や不満、不自然を掬い上げるうえでも、とても大事な仕事です。
前川にそういう仕事をさせる下準備としても、5話は重要だったということなのでしょう。

後のシーンで、溜まりに溜まったプロデューサーへの不信感を表明するのも、それが解決し手に入れた「プロデューサーを待っています」という結論を言うのも前川みくです。
7話までに個別回をもらっている唯一のキャラクターであり、基本的に物分かりよく描かれているプロジェクトメンバーの中でも『言う役』である以上、此処で頭になるのは前川しかいない。
話を回転させる上で、複数いるメンバーを取りまとめ代表する要として、前川みくはほんとうに重要な位置を担当していると思います。

なおこの時、前川みくは猫耳を付けていません。
5話でも猫耳と『にゃ』語尾は前川みくのシリアスさを表現する小道具で、それを引き継いだ描写だと言えます。
『にゃ』語尾はかろうじて装えているので、本当の限界の限界、というわけではないのでしょう。


そして、前川の問題提起は凛ちゃんの転倒で遮られる。
三話ラストで「まぁ今日のところは……」と言いかけた所で、きらりの発言に遮られたように、前川のシリアスな提案はこのタイミングで掬い上げるものではないので、先送りされるわけです。
不満を表面して問題を顕在化はしなければならないけど、その解決を行うには早いタイミングであり、前川みくは今回それを行うのに、適切なキャラクターでもないからです。
今回の話はあくまでニュージェネレーションとプロデューサーの話しであり、前川みくの話ではないのだから、前川の発言は遮られなければいけない。
前川の発言が遮られないのは、前川が主役の話か、前川が主役の問題解決に直接関わる時になります。

此処で前川の発言が遮られるのは、エピソードの主役が誰であるかをハッキリさせる目的だけではなく、エピソードのテーマが何であるかをブレさせない意味もあると感じました。
『選ばれたからには、選ばれなかったものの分も頑張って欲しい』という前川の訴えは当然のものなのですが、今回望まれる解決方法はその角度からツッコむことでは無いわけです。
ラブライカが見せていた『成功』を、ニュージェネレーションも同じように経験していたのだと気付くこと。
それが、6話から示唆されている、本田未央が『やっぱアイドル続ける!』というための魔法です。
ここで前川の抗議をシリアスに受け取っていると、只でさえタイトなスケジュールの話が迷走しだすため、あえてのカットなのだと、僕は感じました。


03)本田未央との一度目の対話
6話ではピカピカと輝いていた本田さんの部屋ですが、Aパート全体を覆う暗い雲に飲み込まれて、ずっしりと重たい雰囲気です。
プロデューサーとの交渉窓口であるインターホンも、闇を塗りたくったかのように黒い。
このコミュニケーションは失敗が約束されているので、Aパートの中でも手ひどく暗いシーンに仕上がっています。

本田未央がただのお調子者ではなく、周囲のバランスを見て前に出、望まれているロールモデルを積極的に担当する子だというのは、今までの話の中で見せてきた部分です。
周囲の期待に答えようとするからこそ張り切り、周囲を見る目とそれを気遣う優しさ故に動けなくなっている子に、「これは、あなた一人の問題では……」というのは、真実の一面を捉えてはいても、正解ではない。
今回何度も呟かれる「リーダー失格」という言葉を見ても、本田さんが心理的バランスを崩したのは、他人との関係に強い責任感を持っている裏返しだと判ります。
理詰めで正しいけど、あくまで表面的な解決法を失敗させることで、後に正解を選ぶシーンのカタルシスが強まっているわけで、巧い作りだなと思います。

無論本田未央はお調子者でもあって、成功に浮かれもするし、チヤホヤされる快楽を夢見るエゴイストでもあります。
前川みくが『大人と子供』『凡人と天才』の中間にいる中途半端なキャラであるように、本田未央も『いい子と悪い子』の中間にいる、普通の女の子なわけです。
ニュージェネレーションの仲間を信頼して、自分の失敗も全て預けてしまえば……素直になれば問題は解決するのですが、普通の女の子である本田未央にとって、出会って数ヶ月の仲間やプロデューサーを信じきることは出来ない。
失敗を預けて身を躱されたらどうしようと怯えるのは、15歳という年齢を考えなくても自然な反応かな、と思います。


04)渋谷凛との一度目の対話
ぐんぐん問題が大きくなっていくAパートですが、まだまだ止まりません。
表面的な対応を続けるプロデューサーに凛ちゃんの不信感は募り、ついに雨まで降り始めます。
誰もいないロッカールームとレッスン場、答えの返ってこない電話は、このままシンデレラプロジェクトが破綻した時の未来、絶対に到来してほしくない世界をちらりと見せる、サスペンスの手法。
同時に凛ちゃんの危機感というか、『このままだとこうなっちゃう』という予感を示すシーンでもある。

この危機感は視聴者のものでもあって、前川とは別のベクトルから、渋谷凛は視聴者の代弁をしています。
二話でアイドルに興味が無い、沢山のアイドルを一切知らない視聴者の代理人として、アイドルに満ちた世界を泳いでいたように、渋谷凛は大多数の視聴者の代表者として、世界に切り込んでいく主人公です。
「このまま、あの人に任せておいていいのかな?」という疑念。
「この状況は何なの? あんたはどうするつもり?」という詰問。
「なんで未央を連れ戻さないの?」という懇願。
「あんたは何を考えているの?」という糾弾。
これは演出と脚本、物語の展開から巧妙に導き出される当然の問いかけであり、これを視聴者の代わりにフィルムに焼き付けるから、渋谷凛はこのアニメの主人公たり得ていると思います。

そして、キャラクターは作中の出来事に何かを感じ取り、変化するから魅力的に映ります。
何にもアツくなれない、クールで無気力な渋谷凛は、第一話でプロデューサーと島村卯月に掛けられた魔法を信じてアイドルの世界に飛び込み、そこで喜びを見出した。
「夢中になれる何か」を見つけられた気がしていた。
今までの6話を回想しながら語られるこの思いは、同時に『渋谷凛という中心軸から見たシンデレラガールズ』の追体験でもあり、30秒にまとめあげた『これまでのシンデレラガールズ』でもあります。
物語が始まる予感にときめいたり、挫折に心を痛めたり、成功に夢を見たり、手応えのない反応に失望したりする凛ちゃんの心の上がり下がりは、多分視聴者のソレと重なり合っている。
それを「でも今は、見つかる気がしない」という言葉で終えている以上、ここまで視聴者が感じるストレスは、やはり巧妙に意図されたものなわけです。


残忍なほど真っ直ぐで、痛いほど真剣な凛ちゃんの言葉に、しかしプロデューサーは身をかわし続けます。
「逃げないでよ」と言われているのに視線は泳ぎ、凛ちゃんの表情を捉えることはない。
凛ちゃんが代弁してくれた視聴者の疑問にも、「申し訳ありません」の一言です。
『俺達が聞きたいのは、そんな言葉じゃねぇ』『そら本田も、自分の失敗を認め、体を預けようとはしないわな』と納得してしまう、徹底した逃げ方です。

花屋という『アイドルに出会う前の場所』に帰ってきた凛ちゃんは、1話と同じように眼を描かれることなく、人格を否定された状態に戻っています。
このアニメはアイドルの話であり、それ以外は存在しないのですから。
一話ラストで夢に出会ったときめきを反芻していた構図をリフレインして、凛ちゃんのAパートは終わります。
見上げている花は期待を意味する、白いアネモネではないですね。
青いアスターなら『あなたを信じているけど心配』かな?


05)ラブライカ
リーダー本田に続き、俊英渋谷までも離脱したシンデレラプロジェクトで、唯一実働しているユニット、ラブライカ。
6話唯一の『成功者』と言える彼女たちに、本田未央が失敗と感じたステージの感想を言ってもらうのは、非常に重要なことです。
本田未央をプロジェクトに帰還させるためには、プロデューサー自身が『あのステージは成功していた』と気づく必要があり、そのきっかけを与えられるのは、『成功者』であるラブライカだけだからです。
そういう意味では、このエピソードの下げ調子は渋谷凛離脱で終わっており、ラブライカへの質問シーンは上げる前兆と言うべきかもしれません。

年少組が子供の残酷さで告げていたように、プロデューサーはプロジェクトメンバーにとって、「何考えているかわからない」、信頼出来ない存在です。
プロデューサーの質問に答える訥々とした口調は、プロジェクトが置かれている現状と、プロデューサへの不信を示しています。
しかし飾らない言葉で、素直に本質を語ってくれる姿勢には、一縷の望みがある。
まだギリギリの所で、ラブライカはプロデューサーのことを信頼し、本当のことを曝け出してくれる間合いを維持できている。
このシーンのぎこちなさは、プロデューサーとメンバー、大人と子供の危うい信頼関係を、巧く切り取っているように感じます。

「ここが私達の第一歩なんだ」という新田美波の言葉は、真実を捉えながら誤解されてしまった「当然の結果です」という言葉と、正しく呼応しています。
彼女たちの目線はコンビの相方→ステージ→客席と健全に広がっていって、観客の拍手もしっかり聞こえている。
自分たちの精一杯の笑顔が、観客の笑顔と拍手を生み出したことに気づけている。
だから彼女たちのステージは『成功』として描写されていたわけです。

心情を吐露するこの発話が、新田とアナスタシアの間をリレーするように行われていることは、ラブライカが人纏まりの存在として作中扱われており、見ている世界に差異がない状態であることの証拠です。
束で扱うことで余計な時間を使わないという実務的な効果もありますが、六話においてあの握手を描写された以上、二人が一人であるような状態には、強い説得力があります。
そのような状態だからこそ素直に『成功』を認識でき、『成功』を呼びこむような集中力のあるステージを作れた。
翻って、ニュージェネレーションはどうしようもなくバラバラであり、これをまとめ上げることで不安定な状況を回復することが、このエピソードの目的であると、ラブライカとの対話は告げています。

『昔は楽しかったし、ワクワクしたけど、今はこんな状態でどうしたら良いか判らない』というラブライカの認識は、強い不信を叩きつけた渋谷凛、「何考えているかわからない」と宣言した年少組と、強く重なるものがあります。
お話が始まってからこの方、少女たちはプロデューサーに『お前が信じられない』と宣告し続けています。
信頼の回復。
不器用なプロデューサーには難儀なそれを、どうにかして成し得なければ、お話は収まるところに収まらないということが、もう一度強調される終わり方です。


06)島村卯月の笑顔
影に支配されていた前半パートですが、島村さんの部屋が写った瞬間、画面が明るくなります。
ピンクとオレンジの温かい色彩、ぬいぐるみでいっぱいの可愛い部屋、優しいお母さんとの思い出の写真、温かい紅茶とおいしいゼリー、可愛い島村さん。
世界は優しくて、夢みたいに綺麗だということを強調するアイテムが、怒涛のように画面を埋め尽くします。
今までの重苦しく緊張感のある展開を弾き飛ばすような安心の乱舞に、視聴者はようやく息をつき、『なんとか話が上向きになりそうだぞ』という希望を持てるわけです。
灰色の世界と対照するように、暖かな色彩の中で島村卯月との対話が始まります。

本田さんとの対話を断られ、凛ちゃんにも拒絶され、メンバーからは不信の色を隠されていない。
プロデューサーが自力で這い上がるには、ちょっと糸口がない状況なので、この対話は島村さんが主導権を握り続けます。
最初語りかけるのも、この状況下でなお希望を維持し続けている姿勢を見せるのも、全て島村さんからです。
アイドルという夢に寄り添って、どんなにしんどい状況でも頑張り続ける島村さんは、この状況で唯一、プロデューサーに何が出来るのか、思い出させることの出来る存在です。
彼女が口にする夢が叶う舞台を用意してあげられるのは、プロデューサーだけなのです。

その希望を感じ取ったのか、此処でようやくプロデューサーは顔を上げ、島村さんの眼を見ます。
相手の顔を見なくても言えるような建前で、正面からの対話を避けていた彼、島村さんとの対話も90度の相対を選んでいる彼が、ようやくアイドル個人を見るこのシーンで、物語は急上昇を始めます。
本田さんや凛ちゃんとのすれ違いの根本に、プロデューサーの臆病さと、柔らかい自分を守るための建前がある以上、個人個人の傷や感情に目を向け、真正面から相手を見ることは絶対に必要な条件です。
それを成し遂げている辺り、今回島村さんが果たしている役割の重要性は計り知れないものがあります。

しかしまだまだ失敗に怯える段階なので、島村さんに『心残り』を口にされるとプロデューサーは体を緊張させ、微妙に視線を逃しています。
ここまで失敗と問責が続いているのである意味当然の防衛反応なのですが、「最後まで笑顔でやり切ることが出来なかった」という島村卯月の『心残り』に、表情を大きく変え、島村さんの顔を見ます。
お客さんを笑顔にするために、浮かべなければいけないアイドルの笑顔。
かつて一話でプロデューサーが発見し、渋谷凛がアイドルの道を選ぶ決め手となった最大の武器は、此処でも格別の破壊力を発揮し、窮地脱出の足がかりとなるわけです。

「凛ちゃんや澪ちゃんと一緒に」「明日には体調も」と、ラブライカですら言っていなかった将来の希望を口にする島村さん。
彼女の姿は無根拠であるが故に頼もしく、同時に危うくもあります。
将来の夢を語る言葉は「ステージに立つ」「CDデビューをする」「ラジオ出演をする」「TVに出る」という、外的な要素の羅列で成り立っています。
同時に自分の笑顔と客の笑顔、仲間と一緒のステージという、内的な夢も語っているので、全てが空疎というわけではないのですが。
過剰に『頑張って』しまう姿と合わせて、この無根拠なポジティブさには危うさが潜んでいるんじゃないかと、僕は思ってしまいます。
それを刈り取るのであれば、鮮やかに容赦なく、優しく踏んでほしいものだと、僕は願って止みません。


07)不信感との戦い
島村さんの無条件の信頼を受け取り、プロデューサーが未来を掴むために目覚めた心を走しださせた……だけでは、問題解決は始まりません。
一番最初に闘うべきは、メンバーの間に根を下ろした不信感です。
少し明るくなった(雨が降っているのに!)部屋に11人のメンバーが勢揃いし、正面からの対話が始まります。

此処での位置取りをチェックしてみると

プロデューサー

前川 城ヶ崎・赤城(Aグループ)

緒方・三村・多田・神崎(Bグループ) 椅子 双葉(別格)

新田・アナスタシア・諸星(Cグループ)

という配置になっています。

これはニュージェネレーション分解、シンデレラプロジェクト解散の危機に、各メンバーがどれだけ焦っているかを、的確に示した配置です。
今回も前川は『凡人代表』としてメンバーの先頭に立つ仕事をしていますし、既に不信を表明している幼い二人が、その背中にくっついています。
普段から自分の気持を素直に表現している莉嘉が、2歳下ながら聞き分けの良いみりあより前に出ているのが、個人的には面白いところです。

そこから柱を隔てて、Aグループのように積極的に抗議をするわけではないが、不安をいだいてはいるBグループがひとまとまりに成っています。
彼女たちはCDデビューも決まっておらず、かと言って前川のように『言う役』を担当するでもなく、距離的にも心理的にも中間的な立場にあります。

距離的には杏もBグループとだいたい同じ位置にいますが、彼女はプロデューサーと正対する位置にはおらず、直立すらしていません。
トランプにおける鬼札のように、シンデレラプロジェクトから距離をおいている彼女のキャラクターが良く見える配置です。

そして一番距離のあるCグループは、CDデビューを果たしたラブライカの二人と、諸星きらりが形成しています。
Aグループ←→Bグループの距離ほど、Bグループ←→Cグループの距離が離れておらず、言わないなりに不安を感じているのは、メンバー全員同じなのだというのが判ります。
ラブライカに至っては、プロデューサーに面と向かって不安を口にしていますしね。

ある程度の実績を積み、プロジェクトの先頭を走っているラブライカを差し置いて、きらりが殿を務めているのは面白い。
ロッカールームでの慎重な発言といい、孤立したメンバーに必ず声をかけている所といい、彼女は人間関係の視野が広く、穏やかにまとめ役を担当してきた。
そんな彼女だからこそ、焦りなく最後尾を務めているのでしょう。
ほんま優しい、頼りになる子やで……。


『にゃ』語尾を付ける余裕が無いくらいに追い込まれた前川を筆頭に、口々に不安を表明するメンバーに対し、プロデューサーが逃げることはもうありません。
目線をまっすぐ相手に向け、相手に誠実であろうとするあまり口にしなかった『絶対に』『します』という言葉を使って、少女たちの不安を受け止めにかかるわけです。
此処のカタルシスは7話単独で生まれたものではなく、今までのお話の積み重ねで生まれたものだと思います。

プロデューサーは今まで、確実に起こることしか口にしてきませんでした。
『検討中です』『企画中です』『決定しました』という事実を口にしても、不確実な未来について言及することはなかった。
アイドルに『これから何がしたいのか』聞くことはあっても、アイドルが『これからどうなって欲しいのか』言うことはなかった。
それはこの後部長が口にする失敗体験から生まれた、彼なりの防御策であり、少女たちへの誠実さの現れだったのだと思います。
それはとても不器用ながら優しく、正しい行動だったと、僕は感じました。

しかしアイドルが(そしてアイドルの話であるこのアニメが)不確実な夢に向かって走る以上、どこかで未来に向かって見を投げ出し、意志と希望で明日を手繰り寄せなければいけない。
『これから何がしたいか』はアイドルだけに必要な夢ではなく、アイドルたちが輝く場所に階段を用意するプロデューサーも、持っていなければならない。
そして一緒に夢に向かって走る仲間である以上、不確実な未来への夢は、共有していたい。
前川が五話で頑是ない夢を皆で語り、それを文字にし絵に起こしたのも、不安を吹き飛ばすための共有行為だった。
その共有が出来なかったから、状況はここまで硬直し、不信は蔓延したわけです。

プロデューサーは「絶対に彼女たちは連れてかえります」という約束をします。
本田未央を説得出来ないかもしれない、というか一度拒絶されている。
渋谷凛も帰還しないかもしれない。
それでも、強い意志を持って前を向き、守るべき少女たちに彼は、不確実な未来を確実だと、約束をするのです。
少女たちの背中を押すプロデューサーとして、それは絶対に必要な言葉であり、此処にたどり着くことでようやく、プロデューサーは物語役割の端緒に付きます。
七話かけて入り口に立つのはニュージェネレーションの三人だけではなく、プロデューサーも同じなのです。


メンバーの信頼を不完全ながら取り戻したプロデューサーが部屋を出ると、部長がいます。
分不相応な夢を見せてしまったと自分を責める城ヶ崎美嘉も、その奥にいる。
彼らは一向に解決しない状況を見かね、解決のために介入しようとした寸前で立ち止まります。
後一瞬プロデューサーが動くのが遅ければ、あるいは部長がその人生経験を以って、あるいは城ヶ崎美嘉が不要な悪役を担当することで、事態は解決の方向に転がっていたでしょう。
しかし、タッチの差でそうはならない。

6話で丁寧に描写されていた『失敗』のための事前準備が、微妙なすれ違いの積み重ねで成り立っていたように、今回の『成功』はギリギリの綱渡りで構成されています。
ドミノが倒れるタイミングが少し遅ければ、今回見せた治りやすい傷ではなく、もっと痛みを伴う形での解決が、この状況には訪れていたかもしれない。
そう思わせる描写を仕込むことで、アニメ全体の緊張感を維持し、辿り着いた場所の価値を上げる。
部長や美嘉とのニアミスには、そういう意味もあるかなと感じます。


08)本田未央との二度目の対話
メンバーに「待っています」と言わせたプロデューサーは、本田未央の元へと急ぎます。
Aパートで島村さんと凛ちゃんがたどった道のりを、彼が駆け抜けていく構成は、状況の変化と画面の配置が呼応してて面白いですね。
これからやってくる生涯を暗示するように、Aパートの鳥居周辺は薄ぼんやりした灯りと少ない人通、不穏な音楽で満ちていて、解決に向けてひた走るBパートにおいて、雨は降っているもののライティングは白強めの爽やかなもので、傘は差していても人通りは多い。
雨の中、傘もささず一心不乱に『自分のやりたいこと』を目指すプロデューサーの姿は、6話のラブライカに重なるものがありますね。
周囲のことを気に出来ない程の強い集中が、このアニメで『成功』を引っ張り込む重要な要素なのかもしれません。

本田さんが部屋の中で腐っている絵面は、Aパートと同じであり、彼女を取り巻く状況も、彼女自身の心も変化していないことが見て取れます。
違うのは、説得にやってきたプロデューサーがまっすぐに本田さんを見つめていること。
ここで不審者に間違わられ、警察の質問を受ける流れは、1話で凛ちゃんを説得した時の流れと同じであり、切れ味の良いコメディーに鳴っています。
『ここなら視聴者の印象に残っているだろう』というシーケンスを、確信を持って再演する演出は綺麗にハマっていて、思わず笑いの溢れるシーンです。
そう、状況は改善されつつあり、視聴者はもう笑ってもいいのです。

Bパートの本田さんは、「リーダー失格だよ……」「あんな事言っちゃったのに……」等など、Aパートでは口にしなかった後悔を多数漏らしています。
頑ななだけでも、傷ついているだけでもなく、傷つけてしまったことに怯え悲しんでもいるという多角的描写であると同時に、Aパートとの状況の変化を際立たせる演出に為っています。
同じ状況、同じ絵面を繰り返すことで、一度目との差異が強調される演出手法は、1話でも多用されていた特徴的なものです。


出入口でのやり取りが終わり、プロデューサーに背中を向ける本田さんの行く先は、当然のように真っ暗です。
外は雨のはずなのに、プロデューサーがいる上手には光が溢れている。
このままあの動きのない部屋に戻れば、本田さんが起こした物語は解決せず、物語は破綻するわけで、物語が進むべき未来を上手下手だけではなく、ライティングでも明瞭に示しているシーンと言えます。

暗い場所に進もうとした本田未央はプロデューサーを拒絶し、その扉をこじ開けてプロデューサーが対話を始める。
散々「何言っているのかわからない」「逃げている」「信頼出来ない」と詰られ続けたプロデューサーですが、島村さんの笑顔に後押しされて、自分の望みを押し付けることを躊躇わなく為っています。
声は明瞭に、目線はまっすぐ、相手と同じ高さに。
カタルシスがあるべきシーンに、皮膚感覚的な気持ちよさをきっちり入れて画面を作れるのは、強いなぁと思います。


頑なな本田さんの心を融かしたのは、『客の数は確かに少ないが、本田未央のパフォーマンスは観客を笑顔にしていた』という事実です。
『笑顔』というキーワードは1話から常に前面に出されている要素で、島村さんがプロジェクトに参加する決め手も『笑顔』、渋谷さんがアイドルという道を選んだのも『笑顔』、プロデューサーが迷いを振り払うのも『笑顔』と、物語の分岐点には必ず『笑顔』が埋め込まれています。
今回本田さんが立ち直る切っ掛けも観客の『笑顔』であり、このアニメにとって、そしてその舵取り役であるプロジェクトにとって、非常に重要な要素だと判ります。

ここのやり取りで重要なのは、本田未央が『失敗』だと捕らえた舞台が実は『成功』だったという事実に、プロデューサーは事前に気付いていた、ということです。
2話ラストで城ヶ崎美嘉のバックダンサーという大役を、後のニュージェネレーションに任せる相談をする際、プロデューサーはあまり乗り気ではありません。
今回明らかにされた過去の傷が彼を臆病にしている(そして、部長としてはその傷を乗り越えて欲しいと思っている)部分はあるのでしょうが、このバックダンサーの成功体験が後々逆に傷になることを考えると、危険性にある程度気付いていたから、慎重な態度を取っていた、とも取れる仕草です。
アー写撮影時にボールを投げる指示を出したり、初舞台の緊張にガチガチになっていた三人に声をかけるよう、ハッピープリンセスの二人に頼んでいたり、プロデューサーの描写は、彼の冷静さや周辺視野の広さを強調していました。
彼は目端が利き、細かい指示が出せる『デキる男』なわけです。

そして同時に『不器用な男』『臆病な男』でもあって、自分が見つけたものを直接伝えることが苦手で、誤解されやすい存在でもある。
それもまた、1話の不審者に間違われる描写であったり、「笑顔です」の乱発であったり、6話の「当然の結果です」であったり、しっかりと演出の蓄積が出来ている特徴です。
長所と短所の両天秤が不穏に揺れ動いていたのが、6話から7話におけるプロデューサーの描写なのですが、本田さんに写真を使って語りかけるこのシーンでようやく、天秤が安定する。
自分が見つけたものを、まっすぐアイドルに伝えることに成功している。
本田未央にステージの真実を伝えるこのシーンは、プロデューサーというキャラクターが、一つの完成を迎える瞬間です。


『失敗』だと思っていたものが『成功』だったのだと気付いても、責任感の強い本田未央は素直には帰れません。
「どういう顔で逢えばいいの、みんなに迷惑かけて」と自分を責める本田さんに、プロデューサーは「だからこそ、このままはいけないと思います」と返す。
Aパートで社会的責任や周囲の感情を持ちだしていたのはプロデューサーで、それを拒絶したのが本田さんなのを考えると、二度目の対話は一度目の対話の、徹底した陰画だというのがよく分かる。
一度目では隠していた本心が、二度目の対話では露わになり、発話者と否定者が交換されているわけです。

そうすることで、『どうするべきか』ではなく『どうしたいか』によって物事を動かしていく、この物語の中で是認されるべき価値観に、本田さんは帰還することが出来る。
自分がやりたいことを口に出しても良い、相手に押し付けても構わないと気付いたプロデューサーが、「私は、このままあなた達を失う訳にはいかない」と無責任で不確かなことをパなしているのも、Aパートでは考えられない変化ですね。


09)渋谷凛との二度目の対話
こうして前を向いた本田さんですが、ニュージェネレーションは二人ユニットではないので、渋谷さんを帰還させなければお話は落着しません。
細かく細かく、常に花と一緒に描写される渋谷凛は、とてもつまらなそうに、何かを待っている。
プロデューサーと島村卯月に出会う前、アイドルに出会う前、夢に出会う前の渋谷凛に戻っている。
不器用に呟く「できたてEvo!Revo!Generation!」は彼女の未練であり、一度見た夢が疼かせる古傷の呻き声なのでしょう。

このシーンの舞台になっているのは1話ラストの公園と同じ舞台で、あの時は光と花に満ちていた場所が、時間の経過とともに、落ち着いた緑色の黄昏に変わっている。
1話ラストも鮮烈な印象の残るシーンであり、その残滓が視聴者にまだ木霊していることを確信し、対比効果を最大限発揮するべく張られたシーンセットです。
話されるべき内容も1話と深く共鳴するものであり、状況の差異と合同、テーマの反復と変奏を強調する上で、これ以上ないセッティングと言えます。
ここに向かう道も、1話でそうであったようにアイドルに満ちてはいるのですが、写っている顔ぶれが変わり、時間の変化を強調しています。


渋谷凛はずっと何かを待っているのに、本田さんに声をかけられても、クールでつまらなそうな表情を崩しません。
頭を下げられても、その姿勢は変わらない。
対して本田さんは『いつも明るい本田未央』を装う余裕が一切ない、決死の表情です。
ここの不格好で、脂汗まみれの本田さんはひどく剥き出しで、凄く強い共感を個人的に覚えます。
途切れ途切れに言葉を探し、視線を彷徨わせて何とか取り返しの付かないことを取り返そうとしている姿は、痛くて綺麗です。

本田さんの言葉で動かないのを見て取って、プロデューサーが前に出ます。
カメラは横からのレイアウトに切り替わり、上手と下手を切り分ける巨木を踏み越えて、プロデューサーが渋谷凛に接近する様子を写す。
ここで近づいているのは、物理的距離であると同時に心理的距離でもあるというのは、まぁ見てれば解ることです。
見てれば解ることを、しっかり見せて、しっかり解らせているのが凄い。


渋谷凛は、相当プロデューサーのことが好きなんだと思います。
何にもアツくなれない、いつもクールな渋谷凛に夢中なことを教えてくれた、立派なオトナ。
胸のワクワクする、アイドルという御伽の国に連れて行ってくれる魔法使い。
新しい出会いも、未知の経験も、何でも持ってきてくれる理想の存在。
アイドルを知らないままに飛び込んだ世界で、一番信頼できる存在がプロデューサーだったのでしょう。
本田さんが三話のステージに抱いたような過大な幻想を、凛ちゃんはプロデューサーに抱いたのです。

本田未央の離脱も、渋谷凛が考えるプロデューサーなら魔法の杖の一振りで、何でも解決してくれる。
そう信じていたのに、誰もが傷つくような言葉を言って、首に手を当てて棒立ちのまま立ち去る本田さんを見守るだけのプロデューサーに、渋谷さんは鋭い視線を向けました。
あの瞬間から、プロデューサーへの幻滅が始まります。

でも、渋谷凛はそれを信じたくない。
だって好きなのだから。
でも、渋谷凛は彼を信じ切れない。
仲間たちはどんどん傷ついて、せっかく手に入れた夢も空っぽになっていって、最後の信頼を投げつけるように、Aパートで渋谷さんはプロデューサーを詰問します。
返ってきたのは、本田さんにしたのと同じような、空疎で臆病な反応でした。
これで幻滅は確固たるものとなり、渋谷凛はシンデレラプロジェクトから離脱します。
6話で本田未央に起きた現象、幻想が過大である故に大きな傷を負う心の動きが、渋谷凛にも起きている。

物語が始まる前のように、つまらなそうな表情で花屋を手伝う渋谷凛は、しかしずっと待っている。
一度見た夢を捨てきれないまま、失った歌など口ずさんでいる。
それくらい、プロデューサーが彼女にかけた魔法は尾を引いているわけです。
信じたいが信じ切れず、信じられないが信じてしまいたい。
矛盾した思いの対象はあくまでプロデューサーであり、本田未央ではない。
だから、樹が引いた一線を越えて渋谷凛のテリトリーに入るのも、彼女の目線を上げさせ、言いたくもない本音を引き出すのは、プロデューサーになるわけです。
渋谷凛は、相当プロデューサーのことが好きなんだと思います。


「迷った時に、誰を頼ればいいか判んないなんて、そういうのもう、イヤなんだよ」
渋谷凛が口にする本心は、同時に視聴者の本心でもあります。
3話を背景にして6話、7話で展開された下げ方は徹底的で、彼女たちの物語を自分のものだと感じながら見ている視聴者にとって、心の落ち着かない辛い時間でした。
それは映像と音響のすべてを駆使して製造された、スタッフの狙い通りの時間であり、計算に計算を重ねた下げ幅です。

渋谷凛の物語的役割に『視聴者の代弁者』がある以上、この不安定な心理状況は彼女が口にし、プロデューサーに叩きつけなければいけない。
誰を頼ってアニメを見ればいいのかわからない、そういうイヤな時間はもう過ごしたくないと、僕らは凛ちゃんに言って欲しいわけです。
そして、彼女はそう言う。
視聴者の感情の落とし所、視聴者とキャラクターとの重ね合わせ、頑なな心を解し吐露するカタルシス。
三枚抜き位を狙った、欲張りで見事なシーンだと思います。

これに対しプロデューサーは「努力します。もう一度、皆さんに信じてもらえるように」と返す。
3-6・7話の下げ幅は、相当な覚悟を持って配置したんじゃないかなと、僕が思った切り返しです。
渋谷凛が『視聴者の代弁者』ならば、この時のプロデューサーは『製作者代行』であり、それがこのセリフを言うのなら、それは『狙って巻き起こした不安定が、不信につながるかもしれないことは覚悟済み』という表明になる。
過度な読みなのは承知のうえで、此処のやり取りは製作者の気概が垣間見えて、とても好きです。


無論キャラクターはメタレイヤーにだけ存在するわけではなく、物語の中には物語の人生が流れています。
好きな人を信じたくて、信じられなくて、でも信じたい凛ちゃんの心そのままに、伸ばしたその手はなかなか触れ合いません。
ここのプロデューサーの手が超デカくて、一種のフェティシズムを感じさせる絵だなとか感じますが。
怯える子どもと、臆病な保護者を象徴するシーンなんで、この大きさで善いと思いますが。

クッソ面倒くさい凛ちゃんの手を取ったのは、躊躇を乗り越え樹を一気に踏み越えてやってきた本田さんでした。
ここで最後のひと押しをするために、本田さんはこのシーンにいます。
笑顔でも涙でもなく、切羽詰まった表情なのが、僕は好きです。

1話でアイドルの世界に踏み出した渋谷凛は、こうしてもう一度リスタートを切るわけですが、その時決定打となった島村卯月はこのシーンには存在しません。
本田未央とプロデューサーが、アイドル見習い渋谷凛の再生を成し遂げているのは、ニュージェネレーションが三人である理由を完全に説明していて、見事だなと思います。
ここで島村さんが凛ちゃんを引っ張りあげていたら、本田さんの存在意義は完全に消えていたし、島村さんも傷つき血を流す女の子ではなく、無敵の天使になってしまう。
島村卯月をそう言う存在にしたくないというスタッフの意思は、これまで密かに、しかし確かに埋め込まれてきた彼女の危うさの描写を見ていれば、一目瞭然でしょう。

この時、1話では対面で話すだけだった距離は、7話ではお互い手を取り合うものに変化しています。
アイドルの楽しさも、苦しさも知った。
苦楽を共にし、傷つけられうこともある仲間に出会った。
無条件に信頼したプロデューサーが、不器用で臆病な等身大の人間だということも解った。
7話分の蓄積が埋めた距離だと思います。


10)エピローグ
EDテーマが流れる中、このお話で初めて晴れ上がった青い空が映り、事態が収まるべきところに収まったことを示します。
謝罪のシーンを尺に収めて、事態が纏まった感じをしっかり演出するのは、5話の前川と同じですね。
不信感と戦ってたシーンとは上手下手が逆になっていること(過去に決着をつけるシーンと、未来に歩き出すシーンの差)、やっぱりきらりが最後尾であることが目を引きます。

プロデューサーが未来への決意を表明し、14人のプロジェクトメンバー全員がそれを受け止め、時計の針が進む。
前川の『にゃ』語尾が復活し、丁寧口調を止めることが提案される。
これは2話ラスト、集合写真への誘いと対になるシーンで、あの時はクールに袖に消えていったプロデューサーは、不器用に首に手を当てながら「努力しま……す……する」と返すわけです。
プロデューサーを受け入れるメンバーの暖かさ。
不器用な自分らしさを抱えたまま、どうにか他人と関わっていこうとするプロデューサー。
ここでも、差異と合同の強調は生きています。


2話でニュージェネレーションを見出し、3話でアイドルの天井の高さを見せ、それが6話で仇になった形の城ヶ崎美嘉。
本田未央が抱いた過大な幻想はあくまで彼女の問題であり、美嘉が気にかける筋合いはないわけですが、それでも責任を感じてしまう。
優しくて頼りになる美嘉姉ぇの姿は、7話で幾度も挿入された映像です。

7話最後に彼女が見せるのは、プロジェクトメンバーが和気藹々と過ごす部屋の前で、「部外者だからやめておく」と一線を引く姿です。
これが序章においてメンター役を果たしてきた彼女の退場の示唆なのか、それとも「部外者だからなんだ!」と将来言うための布石なのかは、全然分かりません。
島村さんの危うさと同じように、いつか活かされる伏線なんじゃないかなと、個人的には思っています。


初めて三人だけ立った舞台に、ニュージェネレーションは戻ってきます。
島村さんはいつもの笑顔、凛ちゃんはいつもの超然とした表情ですが、本田さんは決意を感じさせるシリアスな表情です。
彼女の中で、6・7話での浮沈が大きな意味を持っていて、何らかの変化をしなければならないと考えていることが見て取れます。

その表情が、島村さんの「次のステージ、楽しみですね」という言葉で笑顔に変わる。
常に明るい未来を思い描き、見るものを笑顔にする才能。
島村卯月の天才を再確認して、身の丈にあった小さな一歩を階段に刻むことで、このお話は終わります。
言う言葉は同じだけど、3話で見せた過大な幻想へのジャンプではなく、自分の足で刻む、「当然の結果」としての一歩。
ここに辿り着くまでに、これまでの7話はあったのです。


11)まとめ
映像の流れに合わせ、自分の感じたことを全て書いていったために、非常に長くなってしまいました。
書いてみて思ったのは、アイドルマスターシンデレラガールズは狙いのハッキリしたアニメだ、ということです。
自分たちが、何を描きたいのか。
そのためには、視聴者にどう感じさせるのか。
それを操作するべく、どのようなキャラクターを用意し、お話のリレーをどう創るのか。
描きたいものを伝えるために、どういう画面を作り、どういう物語を作り、どういう効果を生むべきなのか。
それをよく考えた結果、心理的な動きと画面に写っているものが噛みあった映像が生まれ、1話毎の内部での反復、話数を跨いだ反復が効果的に使用されるお話が展開されています。

1話から7話まではやはりひとまとまりの話であり、少女が夢と仲間に出会い、世界の広さに見せられ、挫折を味わってから自分たちの真実を手に入れ、一歩だけ進んだ場所に帰ってくるお話が展開されています。
それは画面の中のキャラクター達の物語を、ひどく身近で愛しいものとして感じられるような、堅牢で丁寧なお話でした。
人間的な弱さも、アイドルへの憧れもしっかりと見せてくれた、シンデレラプロジェクトの仲間たちが、7話までに達成した成長を使って、今後どう飛躍していくのか。
とても楽しみです。